「ブレたくないな」と、よく思っていた — 繰り返す仕事を、AIの「スキル」で固定する

前に、AIに毎回同じ説明をするのをやめた、という話を書きました。会社のことや決めたことを作業場に溜めておいて、AIがそこから必要なぶんを見にいく。渡す手間から抜けた、という話です。
今日はその隣の話です。渡すコンテキストだけじゃなくて、「やってもらう作業そのもの」も、毎回説明し直すのをやめられる。それが、スキルという仕組みでした。ただ、この仕組みが自分の中で腑に落ちるまでには、ずいぶん時間がかかりました。
スキルは、ずっと「よくわからない」ものだった
正直に言うと、スキルという仕組みは、けっこう長いあいだ、僕にとって「よくわからないもの」でした。
言葉としては、前から知っていました。たしかKindleの原稿を書いていた春先には、もう耳にしていた気がします。でも、何のためにあるのかが腑に落ちていなくて、うちのAI——レナードという名前です——にも、「スキルってよくわからないんだよね」と、何度か言っていたと思います。一度は触ってみるんですが、自分の中で「これは要る」という手応えがないまま、なんとなく流していました。昔から吸収が遅いんです。勉強して分かるというより、実務で使っていてモヤモヤしていたところに言葉がハマって、はじめて「あ、そういうことか」となる。スキルも、まさにそれでした。
腑に落ちる前に、ずっと引っかかっていたことがあります。AIの、揺れです。
たとえば、毎日のToDoリスト。大筋の中身は変わらないのに、書き方——見出しの付け方や、並べ方——が、日によって微妙に違う。あるいは、記事を書いたあとに「これをペルソナに読ませて、この観点でチェックして」と頼んでも、その通りにやってくれないことが、たびたびありました。一回目はすごくいいものが返ってきたのに、次に同じことを頼むと、なんだか違う。「あれ、こないだと違うな」と。
これが、地味にストレスでした。AIは、確率で動いています。だから同じことを頼んでも、毎回まったく同じにはならない。多少の揺れは仕方ないんですが、揃っていてほしいところまで揺れると、こっちが毎回それを直すはめになる。「ブレたくないな、ブレたくないな」と、僕はよく思っていました。
その「ブレたくない」を解いてくれたのが、スキルでした。
スキルにする、というのはこういうこと
スキルというのは、ざっくり言えば、同じ形の仕事を、毎回その通りにやってもらうための仕組みです。
やることは、拍子抜けするくらい単純でした。その作業の手順と、判断の基準を、マークダウンのファイルに一度だけ書いておく。それだけです。あとは次から、一言呼ぶだけ。「あのスキルで」と名前を呼べば、毎回そのファイルの通りに、同じ流れで動いてくれる。手順そのものはAIがやってくれるので、こっちが指示をそえ直さなくても、仕上がりが揃うようになりました。確率で揺れていたところに、一本の型が通る感じです。
しかも、その中身の説明文も、自分でチマチマ書かなくていい。「こういう作業をスキルにしたい」と伝えれば、手順の下書きまでAIが用意してくれます。僕は、そこに自分なりの判断基準を足していくだけでした。
いま僕が型にしているのは、口で説明すると長くなる作業ばかりです。記事をレビューするときの観点、メールを書くときのトーンや避けたい言い回し、決まった形式で何かをまとめる作業。どれも、単発なら口で言えばいいけれど、毎回やるとなると、そのたびに説明するのが馬鹿らしいし、説明するぶん言い方がブレる。そういうものを、片っ端からスキルにしていきました。
「よくわからない」だったスキルが、「これは要る」に変わったのは、この瞬間でした。何のためにやるのか——揺れを抑えて、毎回おなじ品質を出すため——が腑に落ちた途端、身のまわりの繰り返し作業が、ぜんぶ型にできるものに見えてきたんです。
いきなり全部を、型にしない
ただ、腑に落ちた反動で、今度は失敗もしました。
面白くなってきた頃、僕は一時、「何でもスキルにしたい」という方に傾きました。繰り返す作業を型にして貯めていけば、どんどん楽になるはずだ、と。それ自体は間違っていないんですが、勢いあまって、まだ一回二回しかやっていない作業まで、先回りで型にしようとしていました。
これは、だいたいうまくいきません。
一回しかやっていない作業は、そもそも手順が固まっていないんです。二回目にやったら「あ、こっちの順番のほうがいいな」と変わるし、三回目でまた変わる。まだ形が定まっていないうちに型にすると、その型はすぐ古くなって、結局は作り直しになる。育つ前に、腐るんです。おまけに、作った型は放っておいても勝手には賢くならないので、メンテする対象だけが増えていく。
なので今は、目安を決めています。同じ作業を二、三回やって、手順の骨格が固まってきたな、と感じてから型にする。それより前は、無理に仕組みにせず、その都度手で回す。繰り返しに気づくのは早いほうがいいけれど、型にするのは、固まってからでいい。「何でも型にしたい」の勢いに、そこだけはブレーキをかけるようにしています。
型にしても、ブレは残る
もう一つ、あとから分かってきたことがあります。揺れが嫌でスキルにしたのに、スキルにしても、揺れがゼロになるわけじゃない、ということです。
スキルにすれば、頼み方は固定できます。でも、固定できるのは指示のほうだけで、実行はAIの解釈を通ります。手順を同じに渡しても、AIがそれを毎回まったく同じに実行してくれる保証は、じつはない。だいたいは揃うけれど、「絶対にここだけはブレちゃダメ」というところには、スキルだけだと少し不安が残るんです。
このことに気づいてから、固定のしかたを、作業の中身で分けるようになりました。
計算や振り分けみたいに、答えが機械的に決まるものは、スキルじゃなくて、小さなプログラムに落とします。同じ入力なら必ず同じ出力が返る、決定論的なやり方です。AIの解釈がそもそも入らないので、ここが一番かたい固定になります。
反対に、良し悪しを見きわめる作業は、機械には落とせません。でも「なんとなく」で採点させるとブレる。こういうときに使うのが、ルーブリックです。何をどう見るか、という判断の基準をあらかじめ表にして、採点の前にAIへ渡しておく。丸ごと任せるよりも、ずっと揃います。
つまり、かためたい順に、プログラム、ルーブリック、そのうえで自由にAIに任せる、という段があって、スキルはそのどこに置くかを決める入れ物なんだ、と今は思っています。前に、破られたら困る一線は「お願い」じゃなく「仕掛け」で止める、という話を書きましたが、根っこは同じでした。ブレちゃダメな度合いで、固定のしかたを変える。
おわりに
振り返ると、スキルにするというのは、自分の中にある「いつものやり方」を、一度だけ言葉にして外に出す作業でした。
面白いのは、出したら終わり、じゃないところです。使うたびに「今回はここも見てほしかったな」と気づいたら、その一行を型に足していく。そうやって育てていくと、一ヶ月も経つ頃には、作った初日より少し賢くなっている。放り込んで固定して終わり、ではなくて、使いながら育つ資産に近い。
「スキルってよくわからない」から抜けるのに、僕は三ヶ月かかりました。きっかけは、賢い使い方を覚えたことじゃなくて、「毎回ちょっとずつ違うのが、地味に嫌だ」という、その不満のほうでした。同じ作業を頼むたびに仕上がりが揺れて、こっちが直している。それに気づいたら、それはもう、型にしていいサインなんだと思います。
この記事は、シリーズ「AIに染まりきるまでの4ヶ月」の実践編です。前の記事『毎回同じ説明をやめた — コンテキストは「貼る」んじゃなく「溜める」ものだった』では渡す情報を溜める話を、この記事では、やってもらう作業そのものを型にする話を書きました。