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社長だけ染まっても、会社は回らない — AIに渡せる仕事を、社員と一緒に探している

仕事・経営論

夜明けの光の中、育ちの段階がまちまちの小さな苗が並ぶ

しばらく前まで、社長の自分だけがAIに夢中で、社員が置いてけぼりになっていました。これ、どこかの会社の話じゃなくて、うちの話です。

今日は、そこから今、どうしているか、という話をします。

AIが大事だというのは、染まる前から思っていた

先に言っておくと、「AIはこれから大事になる」というのは、自分が染まるよりずっと前から思っていました。

だから、けっこう早い段階で、ChatGPTを全員分、会社で課金して、みんなが使えるようにしていました。「これから大事になるから、使ってね」と。……ただ、渡していただけでした。何に使うかも、どう使うかも本人たちにお任せで、正直に言うと、その頃は自分自身も、たいして使っていませんでした。

渡すだけで、自分も使っていない。そうなると、どうなるか。あとで分かったんですが、みんなの使い方は、簡単な質問をちょっと投げるくらいが多かったようです。使っていなかったわけじゃなくて、画像を作ってみた人もいたと思う。でも、チャットに何かを尋ねる、という域を出ていなかった。当たり前です。渡した自分が、その先を見せられていなかったんだから。

自分が変われたのには、順番があった

自分の使い方が変わったのは、あるきっかけからでした。

会社のツールをGoogle Workspaceに変えて、そこからGeminiをがっつり使うようになった。それでClaude、Claude Codeと、どんどん深いところに入っていきました。ChatGPTは、Geminiがあるので一旦きれいにリセットして。

そうやって自分で手を動かしているうちに、やっと腑に落ちたことがあります。AIは、質問の道具じゃない。実際に手を動かしてくれるもの、エージェントとして使える。ここまで来て、はじめて「これか」と分かった。

そして同時に、周りを見て気づきました。みんなはまだ、そのレベルまで来ていなくて、質問の道具のまま止まっている。これは、なんとかしないとな、と。

なぜ、自分だけが先に走れたのか

当たり前のことなんですが、全員が同じペースで変われるわけがありません。

自分が先に走れたのは、たぶん、社長だからです。何かを「やってみよう」と思ったとき、判断するのも自分、手を動かすのも自分。誰の許可も要らないし、失敗しても自分が責任を取ればいいから、思いついた端から試せる。

社員は、そうじゃない。「これ使ってみて」と渡されても、なぜそれを使うのか、それで自分の仕事がどう楽になるのかが腑に落ちていなければ、動けない。動かないんじゃなくて、動けない。立場が違うだけで、AIとの距離の詰め方は、こんなにも変わる。渡すだけで動くなら、ChatGPTの時に、とっくに動いていたはずなんです。まずそこを、自分が分かっていませんでした。

だから今は、渡し方を変えた

反省を踏まえて、今はやり方を変えています。

まず、Geminiだと、さっき書いたエージェントみたいな使い方は、少し難しい。なので、ClaudeのCoworkを全員に配りました。自分のフォルダを持って、その中で実際に手を動かしてもらえるやつです。配って終わりにしないように、「Coworkでこういうことができるよ」というキックオフの会を一度開いてから、使い始めてもらいました。

その上で、決まりごとを一つだけ作りました。毎週金曜の夕方、今週やったことと来週やることを、AIに書かせて提出してもらう。自分では一文字も書かず、書くのはAIなので、一瞬で出てきます。

これ、報告書を書かせるのが目的じゃないんです。提出されたものを見ると、その人がこの一週間、AIをどう使ったかが見えてくる。そして、いい使い方をしている人がいたら、翌週の朝礼で、みんなにシェアする。誰かの「こう使ったら楽になった」が、次の誰かのきっかけになる。そうやって、一人ずつ引き上がっていく流れを、作りたいと思っています。

「これ、AIに渡せる仕事じゃない?」を、一個ずつ

前に、自分の仕事のうち、何を自分がやって、何を手放すかの色分けができた、という話を書きました。その同じことを、社員の仕事でもやろうとしています。

一人ひとりの仕事を、一度こまかく分けてみる。すると、その中に「これ、まるごと人がやらなくても、AIに渡せる部分があるんじゃない?」というものが、ぽつぽつ出てきます。

たとえば、PDFに書いてある数字を、Googleスプレッドシートに一つずつ転記していく作業。あれ、AIにやらせられるよね、と。そういうのを、一個ずつ、隣で一緒に見つけていく。上から「この作業を自動化しろ」と降ろすんじゃなくて、「この部分、AIにやらせてみたら?」と、指させる場所を一緒に増やしていく感じです。

大事なのは、これを自分が全部やらないこと。渡せる仕事を見つけるのも、自分の仕事のやり方を変えていくのも、最終的にはその人自身がやったほうがいい。自分は、最初のきっかけと、詰まったときの相談相手でいればいい。

なぜ、そこまでするのか

ここまでやる理由は、突き詰めると一つです。

AIにできる作業を、社員にやらせておきたくない。まず、楽をしてほしい。めんどくさいこと、機械的なことは、どんどんAIに任せて。人間は、自分たちで決めなくちゃいけないこと、考えなくちゃいけないこと、判断しなくちゃいけないこと、そこだけに集中する。

そうやって空いた時間を、新しいことへの挑戦に向けてほしい。今までやれなかったことに、目を向けてほしい。それが結局、会社の成長にもつながるし、みんなの働きやすさとも両立できると思っています。楽になることと、伸びること。この二つは、たぶん相反しない。

おわりに

正直に言うと、これはまだ、うまくいったと言える段階じゃありません。社員全員がAIを使いこなしている、という会社には、まだ全然なっていない。

それでも、一人、また一人と、「この作業、AIにやらせてみます」と自分から言ってくれる人が出てくると、素直に嬉しい。ツールを配って、あとは投げていただけの頃とは、景色が少し違って見えます。

社長だけが染まっても、会社は回りません。そんな当たり前のことに、自分が一番染まってから、やっと気づきました。ここから先、どう広げていくかは、まだ手探りです。

夜明けの光を受けて、露をまとった一株の芽が立ち上がる


この記事は、シリーズ「AIに染まりきるまでの4ヶ月」の第6作『AIに染まりきって気づいた、社長の仕事』で、核を濁さないためにあえて入れなかった「社員とどう広げるか」についての続きです。